暴行・傷害

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暴行・傷害

暴行とは

暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をする行為のことをいいます。

殴る、蹴るなどの「暴力行為」
刃物を振り回す、石を投げつけるなどの「怪我の危険性がある行為」
水をかける、唾をかける、勝手に髪の毛を切る、等の「常識を逸脱した行為」
など、被害者が怪我をしていなかった場合でも、有形力の行使があれば、暴行罪が成立します。

怪我の程度が大きい場合は傷害罪(刑法204条)として取り扱われることになります。

法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。

刑法208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

暴行罪は、犯人が逮捕・勾留されないケース(在宅事件)が全体の60%以上に及びます。
逮捕・拘留された事件については、80%以上は身柄を送検(検察庁へ送られる)されています。
しかし、送検された事案のうち、送検後に身柄を釈放されるケースが7割にも及びます。
そして、検察官によって60%以上の事案が不起訴処分となり、起訴された事案の80%以上が罰金刑となっています。




傷害とは

傷害とは、人の身体などを傷つける行為のことをいいます。

法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

刑法204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「傷害罪」の構成要件としては、傷害罪の故意があり、実行行為によって結果が生じたことが必要です。

「傷害」とは、判例・通説によれば、暴行や脅迫などで、生理的機能に障害を与えることであるとされています(生理的機能障害説)。

故意に執拗な無言電話や嫌がらせの騒音を繰り返すなどして精神を衰弱させた場合(東京地方裁判所・昭和54年8月10日)や、故意に性病を感染させた場合(大判・明治44年4月28日)、など、暴行の有形力の行使がなくても、傷害罪が適用されます。

また、傷害の結果が生じることについての故意が無くても、暴行の故意があり傷害の結果が生じた場合には、傷害罪が適用されます(最高裁 昭和25年11月9日 判決)。

平成24年7月24日 最高裁 判決要旨
暴行や脅迫などで生じさせた精神的機能の障害も刑法上の傷害と解釈するのが相当であり、外形的な傷がなくても、PTSDを発症させた場合も、刑法の傷害に当たる。

一般的に、刑事裁判で量刑を決める際には、犯行に至る経緯、犯行動機、犯行態様(手段や方法)、示談や賠償の有無、反省状況、被害者の帰責性、その他、様々な事情が総合的に考慮されます。
また、受傷の程度(重傷か軽傷か)として、治療期間の長短、日常生活における支障の程度、外観の変貌の有無なども、大きく影響します。


立証の問題

もっとも重要なものは、実行行為の立証であり、防犯カメラや監視カメラの映像記録、もしくは第三者による目撃証言などが必要となります。
その事件発生時に、現場に加害者と被害者しかいなかったような場合だと、事件として立件されない可能性が高くなります。
また、被害を受けてから病院に行って診察を受けるまでに日にちが空いていると、その暴行による怪我なのか、その病院に行くまでの期間に生じた怪我なのかが特定できないため、傷害事件であっても暴行事件としてしか立件されない場合があります。

市町村や警察における街頭防犯カメラシステム、駅構内や線路沿線、施設や店舗における防犯カメラ・監視カメラの映像、などについては、個人情報やプライバシーの問題にもかかわり、データの流出や悪用などのリスクがあるため、保存期間は、おおむね7日~10日間、最大で30日間程度としている場合が多いです。


告訴受理の判断要素

基本的には、起訴されて刑事処罰となる可能性が高い事件の方が告訴が受理されやすいです。
そして、軽微な事件よりも、量刑が重くなると見込まれる事件の方が起訴される可能性が高くなります。
そのため、告訴状を作成するにあたっては、「量刑判断の要素」を参考に、必要な事実を記載することも大事なことになります。

量刑判断の要素
1犯行の悪質性や計画性特定の相手か無差別相手か、偶発的か計画的に準備していたか、など
2犯行の手段や方法、態様武器使用の有無、回数、時間、危害部位、共犯の有無、など
3被害の重大性加療期間の長さ、後遺症の有無、など
4犯行の動機、背景・事情金銭トラブルの有無や被害者の落ち度・挑発の有無など
5加害者と被害者の関係性友人・知人・夫婦・恋人、同僚、上司部下、など
6犯行後の加害者の行動救護の有無、内容、など
7加害者の謝罪や反省の有無謝罪を尽くしているか、反省して再発防止が見込める事情があるか
8被害弁償や示談成立の有無治療費などの賠償を尽くしているか、相手の許しを得ているか
9加害者の粗暴歴(前科・前歴)過去に同種の事件を起こした経歴があるか、初犯か
10加害者の年齢や環境、性格定職の有無、更生可能性、反社会性、犯罪傾向の進み具合、など
11社会に与える影響・社会的な処罰感情
12被害者の処罰感情
13被害者の性別や年齢

逮捕の可能性

傷害罪においては、現行犯や粗暴犯の場合が多いため、犯人が逮捕・勾留されるケース(在宅事件)が全体の50%以上になっております。
逮捕された事件については、90%以上は身柄を送検(検察庁へ送られる)されています。
送検された事案のうち、送検後に身柄を釈放されるケースは数パーセントしかありません。
そして、検察官によって半数以上の事案が不起訴処分となりますが、起訴された事案の約98~99%は、実刑判決もしくは執行猶予判決となっています。




過失傷害、過失致死

故意でなくても、自転車事故などのように、過失によって怪我をさせてしまったり死亡させてしまった場合には刑事処罰の規定があります。

刑法第209条(過失傷害)
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑法第210条(過失致死)
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

刑法第211条(業務上過失致死傷等)
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

過失傷害における「過失」とは、一般的な注意義務(結果を予見する義務と結果を回避する義務)に違反したことをいいます。

「過失傷害」の公訴時効は3年ですが、親告罪であるため、犯人を知った日から6ヶ月という告訴期間内に告訴しなければ起訴されませんが、「過失致死」「業務上過失傷害」「業務上過失致死」「重過失傷害」「重過失致死」の場合は、親告罪ではありませんので、告訴期間の制限はありません。

「業務上過失傷害罪」と「重過失傷害罪」の公訴時効は5年、「過失致死罪」と「業務上過失致死罪」の公訴時効は10年です。

「業務」とは、人が社会生活を維持する上で反復継続して行う事務のことであり、医師や看護師の医療行為、各種危険物の保管や運搬行為、児童や生徒に対する注意・監護行為、警備員における安全注意行為、愛犬の飼い主の管理監督行為、などがあります。

放し飼いにしていた攻撃性の闘犬が幼児に嚙みついて死傷させた事件、耳にイヤホンをつけた状態でスマートフォンを操作しながら自転車を運転して歩行者に衝突して死亡させた事件、路上でゴルフクラブを素振りして自転車で通りかかった女性の胸部を直撃して死亡させた事件、などにおいて「重過失致死罪」が認定されています。

自動車の交通事故については、2014年(平成26年)5月20日以降、刑法とは別の「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が適用されるようになりました。




暴力行為等処罰法(暴力行為等処罰ニ関スル法律)

暴力行為等処罰法とは、暴行・傷害事件のうち、団体または多衆による集団的な暴行・脅迫・器物損壊、銃砲・刀剣類を用いた傷害、面会強請・強談威迫、などを特に重く処罰するための法律です。


●集団的暴行・脅迫・器物損壊をなした者は3年以下の懲役または30万円以下の罰金
●銃砲・刀剣類を用いて人を傷害した者は1年以上15年以下の懲役
●常習として傷害・暴行・脅迫・器物損壊を犯す者が、人を傷害したときは1年以上15年以下の懲役、その他の場合は3月以上5年以下の懲役
●財産上の不法利益を得る目的で面会強請・強談威迫をなした者は1年以下の懲役または10万円以下の罰金
●集団的に殺人・傷害・器物損壊等を犯させる目的で財産上の利益を供与した者等は6月以下の懲役または10万円以下の罰金

精神障害者による傷害事件

精神病院や精神科のある大きな病院または知的障害者の保護施設等で入院または通院している精神病患者や知的障害者から、医師や看護師、または他の患者や一般市民が、暴行や傷害の被害を受ける場合があります。

刑法上、精神障害や知的障害などによる心神喪失者は「責任無能力」として刑が免除され、心神耗弱者は、「部分責任能力」として減刑されます。


心神喪失 行為の善し悪しや是否の判断が全く出来ない状態
心神耗弱 行為の善し悪しや是否の判断が著しくつきにくい状態

刑法第39条
心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

判例によると、飲酒による酩酊や薬物乱用による中毒などの意識障害で、自ら進んで「正しい判断が出来ない状況」に至った場合には、加害者本人が事件の生じる危険についての「予見可能性」があるため、刑法第39条1項・2項は適用されないとされており、刑の減免を受けることはありません。

実際の裁判においては、心神喪失として無罪になることは、平均すると年間2名程度と、極めて少ないですが、被害者の怪我がよほど大きくない限り、そもそも処罰すべき悪質性が乏しいとして、警察署に被害届の受理を拒まれたり、検察官が起訴を留保することにより、刑事裁判にならない場合も多いと思われます。

加害者が刑事責任を負わない場合であっても、原則として、保護者や付き添い介護者、同居の家族、もしくは病院や施設側に「監督責任」がありますので、民事上の損害賠償責任を追及出来る可能性はあります。


正当防衛

正当防衛とは、急迫不正の侵害に対し、自分または他人の生命・権利を防衛するため、やむを得ずにした行為のことをいいます。

正当防衛は、それが刑法上の構成要件に該当しても犯罪が成立しません。
また、民事上も、他人の権利を侵害しても損害賠償責任を負いません。

刑法36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

民法720条(正当防衛及び緊急避難)
他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

正当防衛の要件

  1. 急迫・不正の侵害があること
  2. 防衛の意思で行っていること
  3. 必要やむを得ない相当性があること


相手が攻撃をやめているのに執拗に殴り続けたとか、数日経ってから報復したような場合についてはは、正当防衛とは認められません。


程度を超えた過剰な反撃行為をおこなうことを「過剰防衛」といいます。
(必要性と相当性の程度を超えた反撃、もしくは侵害をやめた相手方への追撃、等)


正当防衛の要件にあたる事実(急迫不正の侵害、等)が存在しないのに、急性不正の侵害があると誤認して反撃してしまうことを「誤想防衛」といい、「誤想過剰防衛」と「過剰誤想防衛」とがあります。


誤想過剰防衛とは、相手の攻撃を誤想した反撃行為をいいます。
(例:相手が素手で攻撃してきたのにナイフで攻撃されたと誤解して過剰に防衛してしまった、等)


過剰誤想防衛とは、相手への誤想によって過剰になってしまった反撃行為をいいます。
(例:相手からの攻撃に棒で反撃したつもりが日本刀で切りつけてしまった、等)




傷害罪の告訴状 文例サンプル





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