虚偽告訴罪

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虚偽告訴罪

虚偽告訴罪

虚偽告訴

虚偽告訴罪とは、相手に刑事処分・懲役処分を受けさせる目的で、故意に、捜査機関や懲戒処分権者に対し、客観的事実と異なる虚偽の告訴を行うことをいいます。

虚偽告訴を行った者は、3ヶ月以上10年以下の懲役に処されます。


刑法172条
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、 3月以上10年以下の懲役に処する



虚偽告訴で一般に多いのは、痴漢やストーカー・強姦などの被害でっちあげ、ひったくりやひき逃げの事件ねつ造、などがあります。

虚偽の告訴や告発をすると、警察や検察の捜査、裁判の手続きや審判、等、国の適切な公務の妨害となります。

また、もしも告訴によって逮捕され、無罪を主張し続けると最大22日間拘置所に拘置され、連日連夜にわたって警察の厳しい取り調べを受けることになります。
さらには、公判開始まで数ヶ月間も拘置される可能性があります。
そうなれば、家族や職場にも知られ、家庭や仕事を失い、社会的な信用も奪われ、その地に住めなくなる、という可能性も高くなります。
また、起訴をされてしまうと99.8%が有罪となってしまうという現実もあります。
この虚偽告訴は、多くの人に冤罪で犯罪者扱いされる恐怖を与え、さらには犯罪被害者にも申告をためらわせる事態を引き起こす等、社会に多大な悪影響を及ぼす重大犯罪です。




虚偽告訴罪の構成要件

虚偽告訴罪となるには、以下の構成要件を全て満たしていることが必要です。

    虚偽告訴罪の構成要件
  1. 刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で
  2. 客観的事実と異なる内容の告訴や申告を
  3. 刑事や懲戒の処分権限がある者に行うこと


虚偽告訴罪が成立するためには、故意に「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」で行われた必要があります。
過失(誤解)で相手が犯人だと思い込んで告訴などをした場合には虚偽告訴罪にはなりません。

また、「虚偽の告訴や告発、その他の申告」が要件であり、この場合の「虚偽」とは、客観的真実に反することを申告するという「客観説」が採用されています(最高裁 昭和33年7月31日決定)。
よって、犯人では無いと思いつつ、主観的事実(記憶等)と異なる嘘を申告した場合であっても、実際に犯人だったという場合は、虚偽告訴罪は成立しません。
※なお、偽証罪(169条)における「虚偽」については、「虚偽告訴罪」とな異なり、判例・通説ともに「主観説(主観的な記憶に反することとする見解)」が採られています。

この場合の「虚偽告訴」には、告訴や告発の他、懲戒請求の申告も含まれます。
告訴(申告)の方法は、口頭であるか書面であるか、署名があるか匿名であるか、自己名義であるか他人名義であるかを用いたかを問いませんが、申告の内容となる事実は、処分の原因となりうるものである必要があります。
告訴(申告)が刑事処分または懲戒処分を行うにつき相当な機関にされる必要があります(司法警察職員、検察事務官、監督官庁の監督官など)。
なお、告訴・告発は刑事処罰を求める意思表示であり、懲戒請求は懲戒処分を求める意思表示ですが、被害届出は、あくまでも被害事実を届け出るものであり、必ずしも処罰を求める意思表示は含まれておりません。
ただし、被害届の場合であっても、被害調書などに明確な処罰を求める意思表示の記述がある場合であれば、「虚偽告訴」の対象になる場合があります。

虚偽告訴罪の成立には、実際に逮捕や懲戒処分等が行われたことまでは問われません。
虚偽の被害届や懲戒請求書など、その申告が捜査機関や懲戒処分権限者等に到達した時点で既遂となります。
しかし、訴えた事件の無実が判明するまでは虚偽告訴罪は成立しません。
なお、お金をゆすりとる目的で虚偽告訴した場合であれば、恐喝罪または詐欺罪が成立する余地があります。


人(犯人)を特定せず「暴漢に襲われた」等と警察に嘘の申告をしただけでは「虚偽告訴罪」には該当しません。
ただし、警察に対する偽計業務妨害罪(刑法233条)や虚構申告等罪(軽犯罪法第1条の16)が成立する可能性があります。

刑法233条
(信用毀損及び業務妨害)
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

軽犯罪法第1条の16
第1条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(中略)
16 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
(後略)



偽証罪

偽証罪

偽証罪は「法律の定めによって宣誓をした証人」が、「虚偽の証言」をしたことで成立する犯罪です。
国家の審判作用の適正さを確保するために、厳しく処罰規定を設けているものです。

刑法169条
法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。

民事訴訟や刑事訴訟においては、裁判所で証人が証言をする場合、事前に宣誓させることが義務付けられています。
特に刑事訴訟においては、正当な理由なく宣誓や証言を拒んだ場合、過料の制裁、もしくは、宣誓証言拒否罪(刑事訴訟法161条)として処罰を受ける可能性もあります。

民事訴訟法201条1項
証人には、特別の定めがある場合を除き、宣誓をさせなければならない。

刑事訴訟法161条
証人には、この法律に特別の定のある場合を除いて、宣誓をさせなければならない。

刑事訴訟法160条1項
証人が正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだときは、決定で、10万円以下の過料に処し、かつ、その拒絶により生じた費用の賠償を命ずることができる。

宣誓証言拒否罪

刑事訴訟法161条
正当な理由がなく宣誓又は証言を拒んだ者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。



対象となるのは証人のみであり、当事者(原告、被告、被告人)による虚偽の証言は適用外です。

ただし、当事者であっても、第三者に嘘の証言を依頼した場合には偽証教唆罪が成立する可能性があります。

刑法61条
1 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

なお、民事訴訟においては、当事者が虚偽の陳述をした場合、裁判所の決定により、過料の制裁を受ける可能性もあります。

民事訴訟法209条1項
宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、裁判所は、決定で、10万円以下の過料に処する。

さらに、そもそも虚偽の事実をでっち上げて民事訴訟を起こし、裁判に勝って金銭を受け取るなどした場合には、詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性もあります。

裁判所に提出された陳述書の陳述人は、宣誓をした証言では無いため、適用外です。

鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳などをした場合には、虚偽鑑定等罪(刑法171条)となります。

通説・判例ともに、自らの記憶に反した証言をすれば、仮に客観的事実に合致していたとしても罪に問われるとする「主観説」を採用しています。
つまり、記憶違いなどで客観的事実に反した証言をしたとしても、罪に問われる可能性は低いということになります。




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